公開日:
2026年10月11日
ウイスキーには、蒸溜所が自分で瓶に詰めて出しているものと、別の会社が蒸溜所から樽を買って出しているものがあります。後者を「ボトラーズ」と呼びます。
池袋ウイスキーフレンズ(IWF)では2026年8月22日(土)、池袋東口のクエルクスバーさんで、このボトラーズを知るセミナーを開きました。飲んだのは、スコットランドの小さな蒸溜所を営む兄弟のウイスキーです。蒸溜所の広さは、会場のバーと同じくらいしかありません。

ウイスキーの出し方には、大きく2つあります。
・オフィシャル:蒸溜所が、自分で造ったウイスキーを自分で瓶に詰めて出す
・ボトラーズ:ほかの蒸溜所から樽ごと買い、自分たちのタイミングで瓶に詰めて出す。「独立瓶詰業者」とも呼ばれる
ボトラーズのおもしろさは、なんと言っても蒸溜所が出していないウイスキーに出会えること。蒸溜所の定番が12年と18年でも、ボトラーズなら13年や23年が出てきます。いくつかの樽を混ぜ合わせて、自分たちの味に仕上げることもあります。
ひとつの樽だけを詰めたボトルなら、本数は数百本ほど。売り切れたら、同じ味にはもう出会えません。そんな一期一会も魅力のひとつです。

会場のクエルクスバーさんは、IWFがこれまでも何度かお世話になってきた池袋東口のバーです。
講師は、広島でお酒の輸入や販売をしている株式会社キムラ(リカーランドキムラ)の堀口智也さん。この日飲んだ兄弟のウイスキーを、日本に輸入している方です。

席には、スコットランドのビール「ブラックアイル」の缶が一人一本ずつ置かれていました。持ち帰り用のおみやげで、このあとの話につながる、と堀口さんは最初に予告が。

主役は、スコットランド北部のドーノッホという町で蒸溜所を営む、トンプソン兄弟です。2人はもともと、家族が経営するホテルのバーで働くバーテンダーでした。
そのバーには、何十年も前に造られたウイスキーがたくさん並んでいました。兄弟が目指したのは、昔のウイスキーにあった、マンゴーやトロピカルフルーツのような香りです。それを自分たちの手で造ろうと、2016年に蒸溜所を建てました。
建物は、古い消防署を改装したものです。資金は約250人からの出資と、弟のフィルが自宅を売ったお金。家を売ったフィルは、蒸溜所の屋根裏部屋に住んでいたそうです。
兄弟のウイスキー造りは、たくさん造ることより香りを優先しています。
・昔の品種の大麦を使う。取れるお酒の量は減るが、香りが豊かになる
・発酵(麦のジュースを、酵母の力でお酒に変える工程)に、ビール用の酵母を使う。酵母を分けてもらっているのは近くのビール醸造所で、席に置かれていたブラックアイルがそれ
・発酵に1週間以上、蒸溜に10時間以上。どちらも一般的な蒸溜所の2倍以上の時間をかける

蒸溜所ができたのは2016年。自分たちのウイスキーは、まだ定番として出すほど揃っていません。そこで兄弟は、ほかの蒸溜所から買った樽を混ぜ合わせ(ブレンドして)、「トンプソンブラザーズ」の名前で出しています。これが兄弟のボトラーズの仕事です。
収入のためという面もありますが、いちばん見てほしいのはブレンドの腕とのこと。この日いただいた定番のブレンデッドも、そのバランスの良さを味わってほしい一本だそうです。
ドーノッホ蒸溜所のジン
最初の一杯。オーガニックの原料で造ったジン
TB/BSW(6年以上熟成)
兄弟の定番。モルトウイスキー(大麦で造るウイスキー)と、グレーンウイスキー(トウモロコシなどの穀物で造るウイスキー)を混ぜたブレンデッドウイスキー
SRV5(8年以上熟成)
モルトウイスキーどうしを混ぜたブレンデッドモルト。名前は、蒸溜所の前を通る道「ステーション・ロード」から
TB/BSW 1977(47年以上熟成)
1977年に造られた原酒を使ったブレンデッドウイスキー。兄弟の蒸溜所ができるより、ずっと前のウイスキー

僕がいちばん驚いたのは、47年熟成のTB/BSW 1977です。半世紀近く樽で眠っていた原酒なのに、どこかが突出しすぎることなく完璧なバランスで、奥ゆかしさや余韻もしっかりありながら、するりと飲めてしまう。兄弟が見てほしいと話していたブレンドの腕は、こういうことかと思いました。
ボトラーズのボトルは、ラベルに蒸溜所の名前と、瓶に詰めた会社の名前が並んでいることが多いです。棚に「THOMPSON BROS」の文字を見つけたら、この兄弟のボトルです。
僕がバーでボトラーズを頼むときは、まず好きな蒸溜所の名前を伝えて「ここのボトラーズはありますか」と聞きます。同じ蒸溜所でも、オフィシャルとは違う顔のものが出てくるのがおもしろいところです。ラベルの本数や樽の番号は、バーテンダーさんに読み方を教わりながら飲むと楽しいですよ。

セミナーのあとは懇親会へ。指定のボトルは飲み放題で、気になったボトルをそれぞれ自分で注いで飲みました。堀口さんは、実は元バーテンダー。カウンターの内側でお酒の説明をしつつ、美味しいドリンクまで作ってくださいました。

オフィシャルで好きな蒸溜所が見つかったら、その蒸溜所の違う一面に出会えるのがボトラーズです。この回をきっかけに、バーの棚でラベルの小さな文字まで眺めてもらえたらうれしいです。
貴重なボトルをご用意くださり、兄弟の話を聞かせてくださった株式会社キムラの堀口智也さん、会場のクエルクスバーさんに、お礼申し上げます。
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